1. 小さなルール違反も許してはいけない理由 − 割れた窓理論

 「なにもそんな細かいことに目くじらを立てなくても…」と,小さなルール違反を放っておくとどうなるでしょうか。極端な例かもしれませんが,ニューヨークで著しい成果をあげた防犯の取り組みは,秩序維持について大きな示唆を与えてくれるものです。

■画期的取り組みで「犯罪都市」の汚名を返上

 十数年前まで,ニューヨークといえばアメリカ最大の犯罪都市であり,とくに地下鉄は治安の悪さの象徴でした。業を煮やしたニューヨーク地下鉄公団は,犯罪学者ジョージ・ケリング氏を顧問に雇い,抜本的な防犯対策に着手しました。
 ケリング氏が打ち出した方針は「
地下鉄の落書きをすべて消す」,それに加えて無賃乗車などの軽めの犯罪を徹底して取り締まるというものでした。同氏の方法論は,皮肉をこめて「画期的」な対策と呼ばれました。そんなことで凶悪犯罪を減らせるはずがない,誰もがそう思ったのです。
 ところが,7年にわたるこの地道な取り組みは,地下鉄内での
凶悪犯罪の激減という成果を確かにもたらしたのです。
 これを見たジュリアーニ市長は,この犯罪抑制対策をニューヨーク警察にも導入しました。街中の落書きを消し,軽犯罪の取り締まりを続けた結果,地下鉄と同じように犯罪件数が急激に減少したのです。

凶悪犯罪は「割れた窓」の放置によって招かれる

■割れた窓理論

 この成果は,「ささやかな犯罪を放置することこそが,深刻な犯罪を招く引き金になっている」ことを証明するものです。ケリング氏は「
割れた窓(ブロークン・ウィンドウズ)理論」として,このメカニズムを説明しています。
 窓の割れた建物をほったらかしにしておくと,「直す人もいないし,気にする人もいないんだな」という雰囲気が漂いだす。すると,付近の建物の窓も割れだし,付近全体に「何をやってもいいんだな」という
無秩序の空気が立ち込めてくる。これが大きな犯罪の温床となる――というわけです。
 ささやかな犯罪かもしれない「落書き」を,無秩序の空間を演出する
諸悪の根源と見なし,徹底的に消し去ることに全力を投じたのです。その結果,もぐら叩きのように対応に追われていた凶悪犯罪が,嘘のように減少しはじめたのです。ある意味で,犯罪をもとから断つことに成功したといえるでしょう。
 もちろん,犯罪と職場の規律違反をいっしょにはできません。しかし,職場においても「割れた窓」あるいは「落書き」に相当する状況というものがあり,それを放っておけば,大きな規律違反を招くという理屈は十分に成り立つのではないでしょうか。まず,無秩序の空気をつくってはいけないということです。

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