2 時間外労働の上限規制

 長時間労働により,過剰なストレスやうつ病などメンタルヘルス面での問題を抱える労働者の割合は増加しています。最近では電通事件※など労働者の健康に深刻な問題を起こした事件も報道されています。このように長時間労働は(a)健康の確保を困難にする,(b)仕事と家庭生活の両立を困難にする,(c)少子化の原因,(d)女性のキャリア形成を阻む原因,(e)男性の家庭参加を阻む原因となっています。長時間労働の是正によって,ワーク・ライフ・バランスが改善し,女性や高齢者も仕事に就きやすくなり労働参加率の向上に結びつくことが期待されます。

※電通事件 広告代理店大手・電通社員であった高橋まつりさん(当時24歳)が2015年12月25日自殺。2015年10月9日から1ヵ月間の時間外労働は約105時間に及んだことが自殺の原因と考えられている。東京労働局三田労働基準監督署は仕事量の著しい増加により残業時間が急増し,うつ病を発症したためとして,2016年9月30日に過労を原因とする労災と認定した。



◆ 違反したら罰則

 労働時間の上限規制はこれまでも改正されてきました(図表3)が,今回の改正では,労使の自主的努力であった告示から,罰則規定のある法律になりました。したがって,労使の合意があったとしても,上限を超えることは許されなくなります。過労死,メンタル疾患などが社会問題になり,労使の自主的努力には任すことはできず国が乗り出してきたといえるのではないでしょうか。

◆ 上限規制の内容

 上限規制を具体的にみてみます。労働基準法では労働時間は原則として1日8時間,1週40時間以内で,これを「法定労働時間」といいます。法定労働時間を超えて労働者に時間外労働(残業)をさせる場合は,労働基準法第36条にもとづく労使協定(36〔サブロク〕協定)を締結し,所轄労働基準監督署長への届出が必要です。36協定では,時間外労働の業務の種類や1日,1ヵ月,1年当たりの時間外労働の上限などを決めなければなりません。今回の改正では36協定で定める時間外労働の上限(限度時間)を超えた場合,罰則が設けられました。限度時間は月45時間・年360時間,臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも年720時間です。2ヵ月間,3ヵ月間,4ヵ月間,5ヵ月間,6ヵ月間のいずれかの月平均の時間外労働時間(休日労働を含む)が80時間を超えないこと,月100時間(休日労働を含む)を超えることはできません。また,月45時間を超える時間外労働は年間6ヵ月までです。なお,下記の事業・業務は適用が猶予もしくは除外されています(図表4)。
 この法律による規制は2019年4月1日からの適用(中小企業の適用は2020年4月1日から)で,目前に迫っており,待ったなしです。

適用猶予の事業・業務

 自動車運転の業務

改正法施行5年後に上限規制を適用。ただし,適用後の上限時間は年960時間とし,将来的な一般則の適用について引き続き検討。

 建設事業

改正法施行5年後に上限規制を適用。ただし,災害時復旧事業については複数月平均80時間以内1ヵ月100時間の未満の要件は適用しない。将来的な一般則の適用について引き続き検討。

 医師

2019年3月15日に開催された厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」では2024年4月から,「月45時間以内・年360時間」,臨時的に必要がある場合「月100時間未満・年960時間」,当面「年1860時間」が提案されている。

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