1.リーダーが自己と他者の行動傾向を分析する必要性

画一的から個別的なコミュニケーションへ

 仕事はさまざまな人とコミュニケーションをとりながら進めていくことが多く,コミュニケーションがうまくいくかどうかで,その成果や結果が変わることがあります。
 職場のリーダーとして,メンバーとのコミュニケーションは重要です。リーダーは,メンバーのモチベーションを高めて行動を促し,チームの成果を上げていくことが求められています。このように,「人を通して成果を上げる」ためには,仕事の指示や業務支援におけるコミュニケーションの「質」を上げて,メンバーがより快適で効率的に行動できる環境をつくっていく必要があります。
 自分自身のメンバーに対するコミュニケーションを振り返ってみましょう。何かを伝えるとき,仕事を依頼するときなど,どのように伝えていますか。メンバーへの伝え方はいつも同じで,誰に対しても変わらないスタイルで伝えているリーダーをよく見かけます。なぜなら,リーダー自身が経験や成功体験,価値観などをもとに,「自分のやり方」というものを持っており,それが機能することも知っているからです。
 しかし,このように画一的なコミュニケーションは,チーム全体に機能する場合もありますが,伝え方などのスタイルが固定化されることによって各メンバーとのやり取りも画一的になってうまくかみ合わず,メンバーが思い通りの実力を発揮できなかったり,時間がかかってしまったりする場合もあります。メンバーがそれぞれ実力を発揮し,成果を上げていくためにも,各人に合わせた個別的なオーダーメイドのコミュニケーションが求められています。

人それぞれ快適に思考し活動できる環境がある

 環境は,人が何かを考え,行動するときに大きな影響を及ぼします。例えば,ある業務を数名のチームで進める場合,リーダーが「この業務はスピード重視で取り組もう!そして何よりも結果を出すことに集中しよう!」とメンバーに方向性を伝えたとします。すると,「よし,スピード感を持って行動してよい結果を出すぞ!」と張り切るメンバーがいる一方で,「未経験の業務はじっくりと時間をかけてやりたいし,

結果ばかりでなく,プロセス(進め方)も重要では?」と,顔を曇らせるメンバーがいるかもしれません。早いペースを好むのか,じっくりと時間をかけたいのか,結果重視かプロセス重視か,というように,置かれた環境が好ましいかそうでないかで,その人の仕事ぶりや成果に影響を及ぼします。
 自分にとって好ましい環境であれば,思考や行動が活発になり,物事を前向きにとらえて,主体的に行動できるようになります。また,ストレスも少ない環境では,より快適に働けるでしょう。さらに,各メンバーが好ましい環境で活動できれば,メンバー間の情報伝達のスピードアップや信頼関係の構築など,相乗効果が期待できます。

自身の行動パターンを知り相手に適応させる

 メンバーとのコミュニケーションについて考えてみましょう。メンバーの中に,「なぜ,この人は毎回こうなのか」とか,「この人とはどうもやりにくい」「この人にはいつもうまく伝えられない」という人はいないでしょうか。それとは反対に,特に気を遣わなくても「うまく伝わる」,なんとなく「ウマが合う」と感じる人もいるはずです。では,これらの違いはどこにあるのでしょう。
 心理学に,行動心理学と呼ばれる分野があります。これは,アメリカの心理学者,ジョン・ワトソンが提唱した理論体系の1つです。行動心理学は「人間の行動から感情が読み取れる」として,行動や仕草のパターンから心理を研究するものです。実際に,人にはそれぞれ特徴的な行動パターンがあります。
 職場のリーダーがこのような行動パターンを知ることで,自分自身を客観視し,自分の行動が周囲にどのような影響を及ぼすのかも理解できます(自己理解という)。そして,相手がより快適で効率的に行動できるように気持ちを推し量り(他者理解という),活動環境を整えたり,コミュニケーションを変えたりすることで,お互いの信頼が高まり,よりうまく伝えることができるのです。

表紙へ戻る

Page 1.

Go to Page 2.

 

 

目次へ戻る