5.ヒューマンエラーの種類と発生要因


ヒューマンエラーの3つの種類

 ヒューマンエラーの定義は,事故のきっかけとなる人間の間違いです。別の見方をすれば,やるべきことをやらなかったり,やらなくてもいいことをやってしまったりすること,とも言い換えられます。さらに,ヒューマンエラーの分類は主に3つあり,「スリップ」「ミステイク」「ラプス(失念・物忘れ)」です。

 ●スリップ ―― 作業中のエラーを「スリップ」と呼ぶ。何かの作業中に
  十分な注意を払わなかった結果,つい滑って転倒してしまうような実行段
  階での失敗をいい,その時点で気づく。キーボードで隣り合う「、」と
  「。」を押し間違える,サイズ違いのドライバーを使ってネジをだめにす
  るなどもスリップの一種。
 ●ミステイク ―― やっていること自体が,そもそも間違っていること。
  何かを始める計画段階ですでに間違っており,やってしまった後で気づ
  く。情報不足,勘違い,聞き違い,早合点,思い込みなどに起因し,事前
  の準備や確認を怠ることで発生する。ミステイクの予防には,その作業の
  目的や背景をチームで共有しなければならない。
 ●ラプス(失念・物忘れ) ―― 記憶に関わるエラー。ほかのことに気を
  取られて作業の1つを省略していたとか,機器に関する注意説明を聞き流
  して操作を誤ったというようなタイプ。記憶違いやど忘れは誰にでもある
  ので,記憶を定着させるために説明を受けたときはメモを習慣化する,作
  業を系統立てるために手順を番号で表示するなどの対策を講じる。

 こうしたヒューマンエラーを個人で防ぐには限界があり,チームで取り組まないと大きな成果は望めません。1人のエラーで製品不良が発生し,それが市場に出てしまうと,被害額は工場仕切値の数十倍から千倍にも達するといわれています。リーダーは,作業の環境や仕組みについて定期的に話し合う機会を設けて,作業中もお互いに声を掛け合って注意喚起する職場風土をつくっていかなければなりません。
 スリップ,ミステイク,ラプスは,いずれも「仕事の慣れ」が主な要因になります。初心に返って自分の仕事と向き合うために,担当している作業の意味や工程における位置づけを定期的に確認することが大切です。

 では,ここで質問です。右の禁煙マークは,AとBのどちらが正しいでしょうか。過去の例でいえば,Aと答えた人が2割,Bと答えた人は8割でした。「Bのほうが描きやすい」「Bは見た目が自然」などといった意見もありましたが,正解はA。その理由まで正しく答えられた人は,0.1%以下です。「No

Smoking」の「N」のスラッシュが,「O」の字にスライドして1つの象形文字になっているのです。ほとんどの人は,この理由や意味を知らないまま,禁煙マークとして認識していましたが,日々の仕事もその理由や意味を理解すれば見方も変わってきます。

ミスをしても叱らない,責めない

 工場のポカミスの6〜8割は,作業の原理原則を知らない,忘れてしまっていることが根本原因です。また,作業員がエラーによって被る損失を意識していないこともポカミスの発生を助長します。なぜその作業をするのか,作業の意味と位置づけをチームの全員に確認させてください。さらに,ポカミスが発生した場合の金銭的・時間的損失,人的被害なども具体的に説明し,作業に緊張感を持たせることも必要です。
 作業中に誰かの不注意やエラーに気づいたら,その場で指摘しましょう。作業中のエラーは本人の思い込みによって生じていることが多く,その思い込みを訂正するインパクトを与えるには,その場ではっきりと伝える以外にありません。ただし,大声で怒鳴りつけたり,本人を責めたりするのではなく,間違った行動そのものに対して「その行為は間違っている」「大きな被害を招く」と指摘しましょう。
 ある自動車メーカーの現場視察で,作業員が呼び出し合図で自分のミスを連絡する場面に遭遇しました。すると,リーダーがすぐに駆けつけて言ったのが,「教えてくれて,ありがとう」という一言でした。ミスをしたら自ら報告する,ミスをしても本人を責めないという教育によって,リスクが早期のうちに摘み取られる企業風土が醸成されていたのです。

表紙へ戻る

Page 1.

Go to Page 2.

 

 

目次へ戻る